毎日授業のノートをまじめにとって、コツコツと勉強時間をしている、いわゆるガリ勉タイプの子を横目に、普段は部活動などに勤しんでいる地頭の良い子が、テスト前にサラッと勉強をしただけで、高得点を取ってしまう。そんな残酷な光景を皆さんも一度は目にした事があるのではないでしょうか。
一口に“地頭の良さ”と言っても、人間の知性には様々な種類があるため、一括りにする事は出来ませんが、近年の研究により、幼少期の運動習慣が,地頭を良くするのに重要な役割を果たしているという事が明らかになってきたのです。
今回は、時として不条理で残酷にも思える”地頭の良さ”についての一連の研究を紹介すると共に、地頭の良い子を育てるための最適な運動について紹介したいと思います。
神経系の発達は6歳までに9割が決まる!?

幼児期の過ごし方が、その後の人生に決定的な影響を及ぼすという事は、皆さんも一度は見聞きした事があるかと思います。実際、巷には様々な早期教育のサービスがありますが、幼児期の過ごし方についての研究の発端は、100年近く前に遡ります。
1930年にR.スキャモンが提唱したスキャモンの成長曲線は、20歳時点での一般型、リンパ型、神経型、生殖型の発育比率を表したものです。それぞれの型の成長曲線は各年代で別々の曲線を描くのですが、神経系を見てみると、6歳までに9割ほどが発達を終えている事が分かります。

スキャモンの成長曲線自体は、あくまで1930年代に提唱された仮説であるため、科学的根拠が強いとは言えないのですが、現在も幼児期の神経系の発達に関する研究の土台となる概念として、広く引用されています。
子供の運動習慣は、脳の機能的、構造的発達の起爆剤

スキャモンの成長曲線が広く知られるようになると、幼少期の神経系の発達に関する数々の研究が後続する事になります。神経系の発達が6歳までにほとんど決まるのだとしら、いかにして最善の幼児教育を施すべきかという事に関心が集まるのは自然な流れと言えるのかも知れません。
2018年、スペインのグラナダ大学の研究チームは、幼少期に適度な運動をしている子供は、そうでない子供に比べて、前頭葉(長期記憶、社会性、認知機能を司る)、側頭葉(聴覚や情動を司る)、鳥距溝(視覚を司る)の容量が有為に大きかったという報告をしています。
この研究の主任のフランシスコ・オルテガは、このような脳の構造的な差異は、学習能力、言語能力、記憶力などの能力に直接影響を及ぼすものであり、幼少期の運動は、学習のパフォーマンスを上げると述べています。(出典:weforum.org)
また、イリノイ大学心理学部の運動と子供の脳の構造的および機能的発達に関する研究によると、運動習慣のある子どもと、そうでない子供に対して、認知機能テストとMRI検査を行ったところ、運動習慣のある子どもは、認知機能テストの結果が有為に高く、集中力や随意運動を担う大脳基底核の容量が大きかったという結果になりました。
その他にも、幼少期の運動と脳の発達に関する研究は数多くありますが、幼少期の適度な運動は、運動神経のみならず、広く脳の発達に良い影響を及ぼすという報告が多くされています。
幼少期すべき最適な運動習慣とは?

さて、幼少期の運動習慣が脳の発達に良い影響を及ぼすのだとしたら、具体的にどのようにして運動習慣を身に着けさせるべきでしょうか。
幼児教育に力を入れている体操教室や、スイミングスクール、パーソナルトレーニングなどは数多くありますが、今回は、文部科学省の幼児期運動指針を元に、3歳から6歳までの期間で、絶対にやっておきたい運動習慣の作り方を、各時期に分けてまとめてみました。
【3歳から4歳ごろ】
ぎこちなさは残るものの、徐々に複雑な動きが出来るようになる歳であり、自ら進んで何度もチャレンジ事に対して”おもしろさ”を感じる事ができるような環境作りが重要になります。公園の遊具や室内の技巧台やマットなどを活用して、立つ、座る、寝転ぶ、起きる、回る、転がる、ぶら下がるなどの「体のバランスをとる動き」や、走る、跳ねる、跳ぶ、這う、すべる、などの「体を移動する動き」を経験させておく時期でもあります。
安全を確保しつつも積極性や好奇心を育む事が大切です。出来るだけ多くの動きをさせるような工夫が重要です。
(例:マット遊び、遊具遊び)
【4歳から5歳ごろ】
それまでに経験した基本的な動きが定着し始めて、全身運動がなめらかになります。また、友達と一緒に運動する事に楽しさを見出し、社会性を獲得する時期です。また、周囲の環境を利用する事で、球技や鬼ごっこなどのような、より複雑な動きや遊びをするようになります。
子供によっては、かなり複雑な動きが出来るようになり、球技のルールを理解して遊ぶようになります。その子のチャレンジを応援すれば、驚くほどの上達が見られる時期です。また、この時期は社会性を身につけるために、同世代の友達や他人と遊ぶ事が重要な時期でもあるので、大人子供問わず、出来るだけ多くの人と接する機会を作るようにしましょう。
(例:マット遊び、遊具遊び、鬼ごっこ、体操、球技)
【5歳から6歳ごろ】
無駄な動きや過剰な力みが少なくなり、動きが洗練されていきます。それに伴って、体を動かす事自体に楽しさを感じる時期です。また、友達と共通のイメージをもって遊んだり、目的に向かって集団行動をしたり役割分担をするなど社会性の発展も見られます。そのため、目的の達成のために満足するまで取り組んだり、それまでの知識や経験を生かして工夫したりといった高度な遊びも可能になります。
一部の動きや遊びに関しては、大人顔負けの動きをするようになります。子供だからといって制限を加えるのではなく、その子の可能性を引き出してあげる事に専念してあげましょう。
(例:その子に合わせてあらゆる運動を経験させてあげましょう)
まとめ
最後に、すべての時期において重要な3つの心得をまとめたので参考にして頂ければ幸いです。

1.運動を楽しい事だと思わせる
運動自体がつまらなくなりストレスになる事は絶対に避けなければなりません。子供が運動を楽しく思えるような工夫と環境づくりを心がけましょう。
2.好奇心を育む
安全を配慮したうえで、子供の好奇心とチャレンジ精神を助ける環境づくりを心がけましょう。
3.他人と比べない
幼児期の発達は個人差が大きいので、他の子供と比べるのは絶対に厳禁です。その子にあったサポートを心がけましょう。
いかがでしたか?都市部にお住まいの方にとっては子供の運動時間をしっかりと確保するのは難しいかも知れませんが、この時期の運動習慣は一生モノの経験になります。特別な事をする必要はありません、”地頭の良い子”を育てるのには、毎日のちょっとした工夫と心得が重要なのです。
